野奈の小説集

小説を投稿していきマース

触らぬ愛に祟りなし6

放課後、名前のわからない体育教師――名前を教えてもらったはずだけど、忘れてしまった――に呼び出された。

 

職員室のドアをノックし、声をかける。
「1年C組、エイデン・ペレスです。ゲネシス先生はいらっしゃいますか?」
体育教師の名前が分からないのだから仕方ない。ゲネシス先生がエイデンにかけよる。

 

「どうかしました?」
耳が癒されるゲネシス先生の声である。
「体育の先生に呼び出されたのですが……」
ゲネシス先生は考えこんだが、すぐに納得した顔になる。

 

「ああ。でも、エアハルト先生が今いないですね……」
再び、先生は考えこんだ。そうだ、エアハルト先生だった。
「まぁ、大丈夫でしょう。ちょっと、隣の部屋に行きましょうか」

ゲネシス先生に言われた通り、職員室の隣の部屋に入る。先生が椅子に腰掛けたので、
その正面の椅子に座る。

 

「えーと、言いにくいんだけど。……実戦の成績が良くないですよね」
ゲネシス先生は困ったようにエイデンに微笑みかける。
「なので、放課後に私と2人で練習するのはどうかとエアハルト先生と話したのですが――」
「お願いします!」

 

ゲネシス先生が言い終わる前にエイデンが返事をした。
放課後、先生と2人っきりなんて夢のようだ。

「……じゃあ来週からよろしくお願いします」
「はい!」
何なら、今からでも構わない。ゲネシス先生を困らせてしまうので言わないけれど。

ゲネシス先生が立ち上がったのを見てエイデンも立ち上がる。そのまま部屋を出るかと思いきや、ゲネシス先生がエイデンの方を振り返る。


「今日はありがとうございました」
ニコッと笑いかけてくれるゲネシス先生。
ああ、もう。本当、かわいい。

「いえ、本当、俺の方こそありがとうございました」
にやけ顔を隠すように深々とお辞儀をする。
何でこんなにもゲネシス先生は天使なのだろう。きっと、それは永遠の謎だ。

触らぬ愛に祟りなし5

「良かったね、ゲネシス先生」
呼ばれたため、顔を向ける。
「その呼び方、やめろ」
「分かったよ。シーナ」

 

フェルナンはため息をつき、椅子に座る。
「まったく、無茶しないでよね」
「した覚えはねぇ」
フェルナンの向かいの椅子に腰掛ける。

「……まぁいいや。今回もあの子のこと守るの?」
「当たり前だ」


高校で会うことになるとは思わなかったが。

先程、抱きとめたエイデンの感触を思い出す。100年ぶりだったが、やっぱり引きしまった体つきだった。しかも、抱きとめられたのが俺だとわかった瞬間、顔を真っ赤にしてかわい――。

 

「もう、分かったから。うるさいよ」
フェルナンが顔を歪める。
「え?」
「声に出てた」
「嘘だろ?」
「本当」
こんなつまらない嘘をつく奴ではないので本当だろう。

 

「あと!」
ビシッとシーナの顔を指さすフェルナン。
「ニヤニヤしてて気持ち悪い」
……学校であいつのことを考えるのはやめておこう。

触らぬ愛に祟りなし4

ラストの試合。ここまで、全戦全敗である。攻撃が速すぎて、防ぐことしかできない。まぁ、全試合そんな感じだったけれど。

 

エイデンの目の前にロング・ソードがせまる。あっ、負けるなと思ったがおかしなことに気づいた。

 

……剣がオーラまとってな――。次の瞬間、吹き飛ばされていた。

 

待って、このままじゃ木にぶち当たるよね!?もがいたところでどうにかなるわけでもない。死を悟り、ギュッと目をつぶった。

 

衝撃がきたが、痛くない。誰かが抱きとめてくれたようだ。その人ごと、木にぶつかったらしい。葉っぱが大量に落ちてきた。

 

「……大丈夫ですか?」

自分の背後から天使の声が聞こえてくる。恐る恐る振り返ると、ゲネシス先生が苦笑していた。身をていして守ってくれたようだ。

 

それはいいんだけど、顔がものすごく近い。あっ、ダメだ直視できない。

「先生こそ大丈夫ですか!?」

 

先生の腕から逃げるように出る。

「大丈夫と言いたいところですが……」

先生はよろよろとエイデンに近づき、彼の肩に腕をかける。

 

「肩を貸してください」

体重をかけられるが、さすがに支えきれない。先生が重いわけじゃない。身長の問題だ。20cm差で先生を支えきれるわけがない。でも、先生は重くない。

体育教師が駆けつけてくれたため助かった。

 

「あー痣がすごいねーまぁ、大したことじゃないから平気だよ」

白衣の天使(レナール命名)ことガルディアン先生が、優しく微笑んでくれる。ゲネシス先生の方が天使だけど。

 

あの後、保健室に運ばれたゲネシス先生はガルディアン先生に湿布を貼られている。

 

「ほぉら。もうすぐ次の授業、始まっちゃうから教室戻りなさい。ね?」

「はっはい。あっ……」 

「ん?」

「ゲネシス先生」

大人しく湿布を貼られていたゲネシス先生がこちらを向く。

 

「あっありがとうございました」

先生は一瞬驚き、笑みを浮かべる。

「いえいえ、先生として当然のことをしたまでですよ」

あぁ、笑った顔かわいいな。

 

「失礼します」と言って俺は保健室を後にした。

触らぬ愛に祟なし3

「エイデン、さっさと校庭行こうぜ」

ドア付近でレナールがスタンバっている。相変わらず着替えるのが早い。

 

「分かってるって」

急いで体操着に着替え、支給されているゴム製の短剣を持つ。

 

「遅いよ。お前」

「レナールが早いだけだろ」

授業が終わったと同時に着替え終わっている奴に比べたら遅いだろう。

 

「だって体育だぜ、次。しかも魔道具使った実戦だろ。楽しみでしかねぇ」

「……良かったな」

 

体育自体嫌いなのに、魔道具を使った実戦なんて憂鬱でしかない。今すぐ駆け込みたいが、そんなことしたらあの人に会えない。

 

「全員、揃ったな」

体育教師が、出欠の確認をとる。……名前何だっけ?

「なぁ、あの先生の名前何だっけ?」

 

さすがは友と言ったところか。レナールが小声で聞いてきた。

「知らね」

「まぁ、入学して1ヶ月しか経ってねぇし、仕方ねぇか」

 

まぁ別に体育教師の名前何ぞなんでもいい。その後ろに立っている先生が今日も美しい。

「今日の実戦についてなんだが、ゲネシス先生お願いします」

「はい」

ああ、相変わらずのイケメンボイス。

 

「今日の実戦ですが――」

腰まである艶やかな黒髪が風になびく。その髪を耳にかける動作がやっぱり美しい。

 

何でこんなに美しいんだ。天使だ。天使に違いない。ゲネシス先生天使説(レナール提唱)は、もはや真実だろう。

 

「――ということですので、よろしくお願いしますね」

しまった。聞いてなかった。まぁいつもの事なんだけれど。

 

「レナール、なんて言ってた?」

「お前、また聞いてなかったのかよ」

レナールが肩をすくめる。

 

「対戦相手はあっちが決めてくれて、相手を追い詰めたら勝ちだと。そんで、支給されてる武器の魔力の使用禁止。まぁ、この前と一緒だな」

「ありがと」

「まぁ、お互い頑張ろーや」

「おう」

 

 

この前、全戦全敗したんだけど大丈夫だろうか。

 

 

 

触らぬ愛に祟なし2

ここまで、この神駒を追いつめたのは初めてだ。

「先程も問いましたが、てめぇは誰の駒だ?」

「九十九回目にして、ようやく追いつめることができましたか」

 

「質問に答えろ」

「ですが、創造の神(ゲネシス)様あなたは負けます」

余裕に満ちた顔で、刀を小さく振り衝撃波を繰り出した。別になんともないはずだった。後方から悲鳴が聞こえるまでは。

 

急いで聞こえた方に走る。そこには、逃げたはずのエイデンがいた。なんで、お前は戻って来たんだ。ふざけるな。そういった言葉を飲み込んで、エイデンを抱きかかえる。

 

頭を打ち付けたのだろう、血がそこから流れていた。反射的に回復魔法をかける。だが、認めたくないけれど治らない。

 

「逃げろと言いっただろ。どうして……どうして戻ってきた!」

思わず声を荒らげる。そんな私に彼は微笑んだ。

「だって、君にばっかり、たた、戦わせるわけ……にはいか、ないから」

力ない声。戻ってこなければお前はまだ、生き続けることができたのに。

 

「俺のためにお前の命を犠牲にすんなよ……!」

こらえきれなくなって涙をこぼす。それを彼が弱々しい手つきで拭いとってくれた。

「好きな、人を助け、たいと思うのはとうぜ……ん」

 

彼はそのまま安らかに眠ってしまった。先程まで私の涙を拭っていた手を握る。

「それはこっちのセリフだ、バカ」

もうこいつには届かない。

 

こいつの死を何回も何十回も見届けたけれど、慣れることはない。ただただ心が痛い。

 

「創造の神(ゲネシス)様、またお手合わせお願いしますね。百年後を心待ちにしております。」

いつ間にか近くにいたらしい。神駒はそう言って消えてしまった。天界に帰ったのだろう。

 

百年後、次こそは神駒を追いつめる。

そして、お前をエイデンを――。

 

触らぬ愛に祟なし(※BL要素あり)

何度目だろうか。所属不明の神駒(こうく)と殺り合うのは。

「で、結局てめぇはどの神の駒だよ?」

無数のクナイを創造し、神駒に向けて飛ばす。

 

「お答えする義務はありませんので」

それら全てを神駒は、刀で捌く。その間もクナイを創造し、飛ばす。もうエイデンは遠くまで逃げたはずだ。

畳み掛けるようにこれまでよりも倍の速さで、クナイを創造し飛ばす。

 

「創造の神(ゲネシス)様に用はないんですけどっ」

突如、神駒の刀が白いオーラをまとった。どうやら、魔力を付与させたようだ。地上では道具を通してでしか魔力が使えない。そういう制約がある。実に面倒だ。

 

神駒は魔力が付与した刀を振り払った。衝撃波がきたと同時にクナイは全て空中で静止し、地に落ちた。

 

神駒は白い息を吐いた。刀は暗闇で白く輝いている。

「最初から魔力使えば?」

私たちと魔力の量が少ない神駒への皮肉だ。

 

迫りくる神駒の攻撃をシールドを展開し、防ぐ。新しく創造した短剣2本もその間に完成する。

「……皮肉ですかっ」

どうやら伝わったらしい。

 

シールドを破壊されたため、左右に持った短剣で確実に受け止めていく。

金属音が鳴り響く。ずっと続くかに思われたその音は、神駒が離れつつ、刀を振り払ったことにより鳴り止んだ。

 

再びくる衝撃波。そのせいで、一瞬動きが止まる。

「普通、吹っ飛ぶはずなんですけどね」

神駒が息を整えている間に、再び無数のクナイを創造し、飛ばす。今さら気づいたが、木が何本か倒れていた。

 

神駒は刀を振り払う。クナイは全て地に落ちた。だが、刀がまとっていたオーラは消えた。どうやら、魔力の限界らしい。一気に間合い詰め、首元に短剣を突きつける。

 

「長かったなぁ」

 

 

駄べり部の一日(後編)

「颯星、光太郎ちゃぶ台どかせ」

 

やっぱり、動かすようだ。

 

俺と熊谷先輩は立ち上がり、ちゃぶ台を端に

よせる。

 

そのまま俺らも壁際にたつ。

 

「約束を守らない奴はコショコショの刑だ!」


「あっはっはっはっはっはっはっは、ちょっ、先

輩やめっ、あっはっはっはっはっ」


……楽しそうだな。

 

「……楽しそうだな」


やっぱり、熊谷先輩も同じことを思っていたらしい。

 

隣にいる先輩に顔を向ける。


「俺らもやりますか?」


「残念、俺は効かないんだ」


「そうですか……まぁ俺も効きませんけど」

 

「どうだ! 来週はちゃんと持ってくるか!?」


「あはっ、持ってきますんでははっ、やめてく

だっ、さいっ、あっははっ」


「よし、絶対持ってこいよ」


やっと、終わったらしい。

 

解放された手島の顔はものすごく赤くなって

いた。


「もう、少しは手加減してくださいよ忠喜《た

だのぶ》先輩」


「お前が持ってこないのが悪いだろ」 

「二人とも立ってください。 ちゃぶ台元の位

置に戻しますんで」


先程と同じように熊谷先輩と一緒に運ぶ。

 

運び終わり席につく。


「思ったんだけどさ、柳橋


「何さ急に」


「絶対は絶対にないだろ」


熊谷先輩、キメ顔である。

 

「「……ブハッ」」


俺と部長が同じタイミングで吹き出す。


「おい、何がおかしい!?」


「いや、だって……あっはっははは…なぁ分かる

だろ? 光太郎?」

 

「えぇ、わっ、ヒヒっ分かりますっよっ……ちょ

っ、手島? せっ説明……してやっヒヒって」

 

唯一、笑わなかった手島に説明してもらう。


「きっと、颯星先輩のキメ顔がウケたんじゃな

いんすか?」

 

「いや、まぁそれもそうだけど」


ようやく笑いが治まった。部長はまだ、笑って

いる。 

 

これは、俺が説明するしかないようだ。


「熊谷先輩、絶対は絶対絶対ないんですよ

ね?」


「ああ、そうだが……あっ」

 

熊谷先輩の顔が赤くなる。


笑いがようやく治まった部長が煽り始めた。

 

「絶対はないって言うなら分かるよ。

でもさ、絶対は絶対にないっていうのはさー絶

対はないって言ってんのに使ってるっていう

ねー……あっははっ」

 

再び「もう、俺の言ってる事も分かんねぇ」と言

いながら部長が笑い始めた。

 

俺も便乗する。


「しかもキメ顔つきですからねーおかしなこと

言ってんのにー」

 

熊谷先輩が急に立ち上がった。


「帰る!!」


カバンを持ち、部室を出ていった。


「あーじゃー俺も帰るー」


部長は急いでリュックを背負い、そそくさと

出ていった。

 

きっと、いや絶対熊谷先輩を追いかけて言っ

たな。

 

ああ、絶対はないんだっけ。

 

まぁ、そんなことはどうでもいい。

 

「俺らも帰るか?」

 

手島に話しかける。

 

「おーけーろーけーろー」

 

「それ、カエルの鳴き声みたいに聞こえるって」

 

「それ、前にも言われたー」

 

「あれっ? そうだっけ? まぁいいや。部室の

鍵、返しに行こうぜ」

 

「おー」

 

来週もこんな調子でどうでもいいことを駄べ

って終わるんだろうな。

 

ーENDー

 

よろしければ、感想を書いてくださると助かります。今後の参考になりますので、よろしくお願いします。