駄べり部の一日(前編)
今日は唯一の活動日である水曜だ。
部室のドアをあける。
ちゃぶ台を先輩二人が囲んでいた。
「おっ、来たな新入部員」
真っ先に部長が話しかけてきた。
「……どーも」
とりあえず、あいさつを返す。
「相変わらず愛想がねぇな」
熊谷《くまがい》先輩が苦笑しながら、
ここに座れとジェスチャーされたので隣に座る。
「てか柳橋《やなぎばし》。 いい加減、名前覚えろよ」
熊谷先輩が部長をとがめる。
「えーいいじゃん。 覚えなくても」
部長はヘラヘラしている。
「良くねぇよ。 もう五月だぞ」
「時が経つのは早いねー」
「ジジイかよ」
「そんなことより、光太郎《こうたろう》」
「はい」
「名前、覚えてんじゃねぇか」
熊谷先輩がボソッと呟く。それを無視する部長。
「もう一人は?」
「委員会で遅れてくるそうです」
手島《てじま》は放送委員だ。
「えーお前、悠貴《ゆうき》の代わりに行ってこいよー」
部長が口をとがらせる。
「それ、俺より手島の方がいいってことですか?」
「手島の方が愛想いいからな」
部長ではなく、熊谷先輩が答えた。
すかさず、部長が煽ってくる。
「アルェー、俺は悠貴に用があったからああいう言い方したたけだよー。 颯星《はやせ》君はそう思ってたんだねー」
俺も悪ノリする。
「熊谷先輩、そんなこと思ってたんですね……」
「あーあ、光太郎がカワイソー」
部長も俺に合わせてくれた。
熊谷先輩は盛大にため息をついた。
「お前らなぁ――」
「委員会でおっくれましたー!!」
馬鹿でかい声が部室に響きわたる。
「相変わらず元気だなー悠貴」
部長があきれながら言う。
「そうですかー?」
そう言いながら、部長の隣に座る。
手島、部長、熊谷先輩、俺といういつも通りの順でちゃぶ台を囲む形となった。
「ホント、毎度毎度うるさいからやめてくれ」
俺は軽く抗議をする。
「どっかの誰かさんみたいに愛想悪くないからいいだろ」
「……熊谷先輩、さっき悪ノリしたこと謝りませんので許してください」
「いや、謝れよ」
「さっきって何ですか?」
「ああ、それはな――」
さっき居なかった手島に部長が説明してくれているので、俺はその間に熊谷先輩に言い返す。
「いや、先輩も悪いですからね。 俺より、手島
の方がいいっていうのは分かりますけど、そ
ういうのは俺の前で言わないでください普通
に傷つきますから」
「おっおう……悪かったな」
「分かればいいんですよ、分かれば」
俺は満足気にうなずいた。
「いやちょっと待て」
「まだ何か?」
「お前は謝ん――」
「颯星先輩、俺の方がいいんすか!?」
またもや、手島にさえぎられる熊谷先輩。
不憫だなと最初の方は思っていたが、何回もあったのでいつも通りだなと思うだけだ。
「ちょくちょく俺の言葉をさえぎってくんのを
除けばお前の方がいいな」
「やったー!!」
再び部室に響きわたる馬鹿でかい声。
「……颯星に好かれて嬉しいか?」
部長が真顔でつぶやく。
「俺は嬉しくないですよ」
「良かったー同じ奴がいた」
部長が俺の言葉に安堵した。
「……お前らの方がひどいだろ」
「まぁ、そんなことより」
相変わらず熊谷先輩の呟きを無視する部長。
「手島、いい加減マンガ返せ」
「……今日、持ってきてないです」
「先週、持って来いって言ったよな?」
おっと、これはちゃぶ台を動かすやつか?
ー後編へ続くー